『恵みの雨』 by sako







洪水のような文字の羅列に身を委ねていると、ふっと突然、意識が外界に浮かび上がる瞬間がやってくる。
じわじわと身体に感覚が戻り、現実世界へ回帰する。
僕は、この瞬間が好きだった。

そして今、僕は文字の海から浮上する。
ゆっくり、ゆっくりと。

手元に広げた本から目を離し、外に顔を向ける。
久々に晴れていたはずの空が機嫌を損ね、重い涙を地上に流していた。
か細い泣き声は、窓越しの僕の耳には聞こえてこない。
ただ、霧のように細かい水滴が窓を濡らすだけだった。
そういえば、と壁に掛けてある時計を見ると、もう夕方の4時半を過ぎていた。
自室に篭ったのは、確か昼食後すぐ。
3時間以上、文字の波間に揺られていたというわけだ。
固まってしまった身体をうん伸ばすと、とある約束を思い出した。
・・・待てよ?4時45分??
しまった!リビングに集合と言われた時刻が、確か4時半。
梅雨時の午後はどうしても気が滅入るというジェットの発案で、ポーカー大会が
開催される予定となっていた。メンツはジェットを筆頭に5人。
行けたら行くよなんて曖昧な返事をしたけれど、実は、いつかの惨敗を
見返してやろうと、人知れず闘志を燃やしていたりする。

軽く勢いをつけて椅子を離れ、リビングに降りようとドアノブに手をかけた、
ちょうどその時だった。

「すっかり傘のことなんか忘れてた」

「・・・そう思って、迎えに行ったんだ」

ぼそぼそと2人、おそらくフランソワーズとジョーの声が聞こえてきた。
階段を上がる途中だったらしく、その声は段々とこちらに近づいてくる。
会話からすると、梅雨時の今、珍しく傘を忘れたフランソワーズを、
これまた珍しくジョーが迎えに行ったのだろう。
彼にしてはなかなか気の利いたものだ。
彼女が傘を持っていったかなんて、以前の彼なら気に留めることもできなかっただろう。
これは、フランソワーズによる教育のたまものだろうか。
彼女の口からその手の不満が聞かれる回数は、段々減ってきている。
果たして、彼女が譲歩をしたのか、彼が変わったのか。
どちらにせよ、お互いの距離を見つけたようで、以前はどこかちぐはぐだった会話も
それなりの形を見せるようになってきた。そう、普通の友人くらいには。

饒舌とは決して言えないジョーの話し声の合間に、フランソワーズのくぐもった
笑い声が、静かに廊下を通り抜ける。
ジョーの奴、彼女をこの場に引きとめようと、あれこれ手を尽くしているようだ。
大丈夫、そんなことしなくても、フランソワーズは君の側に居るだろうから。
だから、そう必死になるなよ。
聞いてるこっちがやきもきする。

きっと、床に腰を落として話し込んでいるんだろう。
扉の向こうの気配は、そこから全く動きそうもない。
外は雨。リビングはジェットたちが占拠している。
もちろん、互いの部屋に招き入れるほど距離が近いわけでもなく。
ドアに背をもたれ、腕を組むと、思わず息が漏れた。
・・・しょうがないな、本当に。

このまま読書に戻ろうとしたが、置き土産を思いつき、脳内無線を開く。
相手はジェット。

『よう、もう始まってるぞ。やらないのか』

『悪いけど、今回は遠慮するよ。本の続きが気になるんだ』

『ほー相変わらずの本の虫ってか。ほいじゃ、気が向いたら来いよ』

メンツは十分足りてるから、彼も無理に呼び寄せようとは思わないだろう。
だけど、これで負けが込んでくると話は違ってくる。
僕を引き入れて、流れを変えようとするのは明らかだ。

ジェット、今回ばかりは君の勝利を祈ってやるよ。
だから、2階にだけは上がってくれるなよ?
こうでもしないと、この2人、前に進みそうもないんだ。




廊下から一番遠い窓辺に再び腰を下ろすと、本を広げる。
すっかり開いてしまった感覚は、文字の波間に上手く乗ってくれない。
さて、どうやって聞かない振りをすべきだろう?
すると、音もなく降り続いてた雨が、ようやく本来あるべき勢いを取り戻し、
目の前の窓を叩き始める。

恵みの雨、か。

心地よい雨音に揺られて、僕はゆっくりと目を閉じた。







<管理人より>

『mituzero〜ミッシツ009〜』sakoさんからいただきました♪
恐れ多くもウチのピュンマさまTOP見て書いて下さったという事で・・・
まさに雨音BGMにおくつろぎあそばすいんてりじぇんすなピュンマさまっ(倒)
しかもオマケに39セット憑きのごおじゃすぶり〜〜〜っっ(踊り狂ってます)
ありがとうございますsakoさん〜〜〜!(感涙)
ほぉらほらほらほら〜♪どーですっ、めみさんっ!?←逆襲♪←謎だって(汗)

で実は最初、
何かご本人びみょ〜に(笑)不満だったらしく
表に出すのをためらってらっしゃって(涙)
「こんなんつけるけどどかな〜?」とコレの下絵を突きつけ
動揺した隙を突いて強奪したのでした(爆笑)

…で。
強奪しといてUPがこんなに遅くなったのは(すいません2週間以上隠匿しました:涙)
描いた絵がびみょ〜に不満で描き直してたからです(汗)
#人の事云えない、全くもって云えない>自分(嘆)


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